スタートアップにおける監査難民という問題について個人的に思うこと

スタートアップ経営管理
Startup with young man in the night
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久しぶりに全くGASやpythonでもない、個人的によく関与することの多いスタートアップにおける監査難民という問題(監査法人が監査契約を締結してくれないスタートアップが多いこと、正確には準金商法の監査契約ですが)について、直近1年くらいで証券業界・監査法人界隈・金融庁・内閣府(前官房長官かな)が進めていた対応や調査の結果を、個人的感想も含めて解説していきたいなと思います。

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事の発端となった監査難民問題

ことの発端は個人的には結構根深いかなぁと思っています。監査法人側、証券会社側、スタートアップ界隈にそれぞれのスタンスに基づく難しさが難民問題を生じさせていました。

監査法人側の事情

もともと監査法人は基本公認会計士がほぼ全ての構成員となる組織として作られています。そうなると新規人材の供給は試験合格者がどの程度いるかという話ですが、毎年少しずつ増えるものの基本は1000〜1300人程度が毎年論文試験合格者となります。その合格者を大手・準大手が基本採用していく構造です。

まぁそんな中でも基本大規模な変動がなければ、昔から大手監査法人主体で15法人くらいがメインとなってIPO企業の監査を受嘱していました。監査法人冬の時代とかは、大手監査法人も新規営業しなければという話でIPO銘柄を積極的に契約していた時代もあります(ちりつもでも売上を伸ばすため)。

それが、2つのイベントで大きくトレンドが変わります。そのイベントというのが以下だと思っています。

監査法人におきたBig issues
  • 東芝不正会計問題によりEY新日本監査法人から大手上場企業が他の大手に監査法人の変更が多発
  • 監査法人に労基が入り、残業をベースにした受注が困難になった

他にも、協会通牒で監査品質の確保などが出て、大手はどうしても手のかかりやすく(リソースをさく必要がある)、報酬の低い(でも、サービス残業が許容されない)IPO銘柄が受けられなくなってきたというのがあります。

労働集約的なビジネスモデルを踏襲する監査法人においては、低単価(あくまで大規模上場会社と比較して低いという意味であって、スタートアップにとって安いという意味では全くないです)でリソースが大きく割かれるIPO案件本来的には優良案件にはなりにくいという面を持っています(もちろん上場して会社規模が大きくなり、継続して契約してもらって監査報酬が上がっていくという綺麗なストーリーもありますが、当然比率は低いです)

証券会社側の事情

IPOにおける証券会社の役割は、そもそも公開準備の指導・公開審査・株式の引受と販売となります。

公開準備の指導と公開審査でスタートアップに価値を提供して、株式引受でマージンを取得して利益を出すモデルです。

公開準備や指導で時間の割りに低い単価で受けるのは、主幹事となって株式引受で一番大きいポーションを取り扱えれば、リターンが大きいからというのがあります。また、上場後も社債発行や追加発行などで事務手数料が得られます。

では、証券会社にとって一番嫌なケースはなんでしょうか?

公開準備指導や公開審査でリソースを割いてきたIPO銘柄が東証審査など証券市場の審査において、弾かれるというのが最もきついですよね。それの原因が監査法人だとしたら。。

となると、主幹事証券が監査法人とかを押す場合、どうしても大手や少なくともIPO達成経験のある監査法人を指名したくなるのは合理的な判断だとも思います。もちろんそのやり方でこれまで安定して回ってきたのが日本のIPOマーケットでした。スタートアップという文化が根付くまでは、そこまでIPOしたいという会社が多いわけでもなく別にもともとのやり方でも問題が生じなかったのも事実です。

それが、昨今のスタートアップ増加の流れもあり、これまでのやり方だけでは実は監査を受ける監査法人側に問題が生じてしまっているというのが現状かなと思います。

スタートアップ側の事情

スタートアップという文化が広がってきてはや20年くらいですかね。特にこの10年はスタートアップは高い関心とexitによるあれこれの問題(上場ゴールなども含めて)も含めて色々あった時期かと思います。何よりエコシステムが出来上がってきて(資金供給するVCやサポーターなどの増加)、スタートアップの数自体が非常に多くなったイメージです。もともといたのかもしれませんが、表に出てきやすくなったのかもしれませんが。

そして、当然ながら数が増えてくると起きることが、新しいものは若い人の方が好きな傾向が一般的で、スタートアップの低年齢化でしょうか。大学生などのスタートアップもかなり多いですよね。そうすると実際のビジネス経験はなかったりします。

その中で、サポーターの数は増えているので、例えば顧問税理士のようにお金を払えば契約してもらえるのが一般的と考える、もしくは自社にベネフィットのある契約をするっていうのが当然と考える人が出てくるのも、まぁ少なからずはあるでしょう。

そうなってくると相手側の事情やビジネスモデルにおける自社の契約上の立ち位置(相手から視点で優良顧客・一般顧客・劣化顧客)が理解しにくいケースが増えているのかなぁというのも実情。

特にエンタープライズとの契約で成長するB2BのSaaSとかだと、大手と契約する時は口座開設や先方のセキュリティチェックなどで色々注文を受けるので、自社側も変化しなければ契約できないと感じる面も多いのですが、B2Cメインだとそういう面も比較して少なくなり。まぁB2Bのスタートアップであれば全部が全部できてるわけでももちろんないですが。

時代背景的には一時期はスタートアップが監査法人を自由に選べる時代(東日本大震災後やリーマンショック後とかのリセッション期がメイン)もありましたが、今は時代的には監査法人がスタートアップを選ぶタイミングになってきているのも事実です。

そんな中で監査難民がピックアップされた出来事

世に広めた日経の記事

広く知れ渡ったのは、以下の記事が日経に掲載された2019年4月かなと思います。

新興企業の株式上場に「監査難民」の危機 解決策は: 日本経済新聞
日本経済新聞の電子版。日経や日経BPの提供する経済、企業、国際、政治、マーケット、情報・通信、社会など各分野のニュース。ビジネス、マネー、IT、スポーツ、住宅、キャリアなどの専門情報も満載。

この記事はよく纏まっているなぁと個人的には思っています。それぞれの業界から見た視点でのコメントも入っていて、前提となってる問題もコメントの中に入っていたりと、今見てもよく纏まってるなと思います。

監査難民問題についての動き〜連絡協議会編〜

このような形で顕在化されてきたことで、行政も巻き込んだ形で動きがおきてきたのが、以前記事で紹介した連絡協議会の報告書でした。

この協議会の報告書は、関係諸団体(会計士協会・証券業協会など)にタスクを振り分ける形でまとめられています。

そして、先日会計士協会側の対応として公認会計士としてのIPO支援という物に対する対応が発表され始めました。

連絡協議会の報告を受けた会計士協会の対応

大きくは3つ対応の柱が存在しています。

会計士協会の対応
  • 中小監査法人を活用してもらうためのリスト化(大手偏重の流れを変える)
  • 独立会計士名簿の公開(スタートアップの監査受嘱レベルに達していない企業への対応)
  • ガイドブックの更新

詳細は以下リンクに記載されています。

公認会計士による新規上場(IPO)支援 | 日本公認会計士協会
ホーム一般企業の方へ公認会計士による新規上場(IPO)支援 公認会計士による新規...

個人として対応したこと

私も一応会計士の端くれで、スタートアップに関与するケースが多いので、独立会計士名簿に登録させてもらいました。ちょっと宣伝ぽくなってしまいますが汗

IPO支援事務所として登録されました – 杉村公認会計士事務所
先日公開されました、日本公認会計士協会の「IPO支援に関わる独立開業の公認会計士名簿」に弊事務所も登録させていただきました。登録の報告もかねて、支援事務所としての立ち位置や私の考えを少しだけ説明させていただければと思います。

こちらの記事に自分が思う監査難民を減らすためのスタートアップ向けに自分ができることや個人的にしていくべきかなと思うこともまとめています。

まとめ

個人的にはスタートアップというか、新規に企業して既存産業に新しい風を入れていくことは必要な要素だと思います。ただ、日本の場合、大手も一定程度の規模になるとM&Aという手法ではなく、自社で同様の新規事業を始めるというやり方が多くあるので難しい面も当然あります。

スタートアップも監査法人が契約してくれないと嘆く前に、現在の受給関係を理解して、どうやったら相手が契約してくれるかを考える必要はあると思います。他責ではなく、自責で、がスタートアップではマストな概念ですよね。

双方理解が進んでいくことを期待していますし、少しでも貢献できればなと思っています。

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