「新リース会計基準の対応を始めたいが、どの契約がリースに当たるのか分からない」。そんな悩みを抱える経理担当者は多いのではないでしょうか。新基準では、リース会社との契約だけでなく、不動産の賃貸借や業務委託契約の中に含まれるリースも検討対象になります。社内に散らばる大量の契約書を一件ずつ読むのは、通常業務と並行するには重い作業です。
この記事では、生成AIを使って契約の洗い出しとリース識別の一次チェックを効率化する方法を解説します。判定のポイント、実際の手順、コピペで使えるプロンプト、洗い出し台帳の項目まで具体的に紹介します。対象は、上場企業やその子会社、IPO準備企業の経理・決算担当者、そして契約書を管理する総務・法務の方です。なお、最終的な会計判断は監査法人や専門家と協議のうえで行ってください。
新リース会計基準で経理がやること|契約洗い出しの全体像
適用時期と基本的な考え方
企業会計基準委員会(ASBJ)は、2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等を公表しました。2027年4月1日以後に開始する連結会計年度・事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始の期首からの早期適用も認められています。3月決算の会社であれば、2027年4月から始まる事業年度が最初の適用年度です。
最大の変更点は、借手の会計処理です。従来はファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分し、後者は賃借料として費用処理していました。新基準では区分をなくし、原則としてすべてのリースについて使用権資産(資産を使う権利)とリース負債(将来のリース料の支払義務)を貸借対照表に計上します。
「リースに見えない契約」が論点になる理由
新基準では、契約の名称ではなく中身でリースかどうかを判断します。そのため、これまでリースと認識していなかった契約が対象になる場合があります。例えば、オフィスや倉庫の賃貸借契約、駐車場契約、特定の設備を使う業務委託契約、データセンターの専有ラック契約などです。
こうした契約は、経理ではなく各部署が締結・保管していることが多く、存在自体を把握しにくいのが実情です。適用初年度の期首残高を正しく計上するには、適用開始の前年度中に契約を洗い出し、判定を終えておく必要があります。つまり3月決算の会社なら、2026年度中が実質的な準備期間になります。
リースの識別の判定ポイント|生成AIと人の役割分担
リースに該当するかは、契約が「特定された資産の使用を支配する権利を、一定期間、対価と交換に移転するか」で判断します。支配の有無は、使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利と、使用を指図する権利の両方で見ます。
生成AIは、契約書から判定に必要な事実を抜き出す作業が得意です。一方、「実質的な入替権があるか」「指図する権利がどちらにあるか」といった評価は、会計上の判断を伴います。次の表のように、AIに任せる範囲と人が判断する範囲を分けておくと、作業が混乱しません。
| 判定の観点 | 生成AIに任せる作業 | 人が判断すること |
|---|---|---|
| 特定された資産があるか | 号機番号・所在地・区画など資産を特定する記載の抽出 | 供給者の入替権が実質的かどうか |
| 経済的利益を享受するか | 専用利用・排他利用に関する条項の抽出 | 他社と共用している実態の有無 |
| 使用を指図する権利 | 利用方法・稼働時間の決定権に関する条項の抽出 | 指図権が借手側にあるかの最終評価 |
| 期間と対価 | 契約期間・更新条項・解約条項・金額の抽出 | 延長・解約の行使が合理的に確実か |
AIの出力は「判定結果」ではなく「判定材料の整理」と位置づけるのがポイントです。この線引きが、後述するハルシネーション対策にもなります。
生成AIで契約の洗い出しを進める手順
ここでは、契約書PDFを生成AIに読み込ませて一次チェックする流れを紹介します。ツールはClaude、ChatGPT、Geminiなど、法人向けプランでファイル読み込みに対応したものを想定しています。
- 候補契約のリストアップ:支払データ(買掛金・未払金の取引先別明細)から、毎月定額で支払っている取引先を抽出します。賃借料・地代家賃・業務委託費・保守料などの科目が主な候補です。
- 契約書の収集:抽出した取引先の契約書を、契約管理システムや各部署から集めます。見つからない契約は「原本なし」として台帳に残します。
- マスキング:個人名や口座番号など判定に不要な情報は、社内ルールに沿って伏せ字にします。
- AIによる条項抽出:後述のプロンプトで、資産の特定・期間・解約条件・金額などを抽出させます。
- 台帳への転記:抽出結果をスプレッドシートの洗い出し台帳に貼り付けます。出力をタブ区切りにさせると転記が楽です。
- 担当者レビュー:抽出内容を原本と照合し、リースの識別を判定します。判断が難しい契約は「要協議」として監査法人との論点リストに回します。
- 簡便法の判定と集計:短期リース・少額リースに当たるかを判定し、オンバランス対象の契約を確定させます。
最初から全件をAIに流すのではなく、10件程度で試してプロンプトを調整するのがおすすめです。自社の契約書の書式に合わせて抽出項目を増減させると、精度が安定します。
リース識別チェックに使えるプロンプト例
以下は、契約書1件ごとに条項を抽出させるプロンプト例です。判定を断定させず、根拠となる条項番号を必ず出させている点がポイントです。
あなたは日本の上場企業の経理担当者を補助するアシスタントです。
添付の契約書を読み、新リース会計基準のリース識別に必要な事実を抽出してください。
# 抽出項目
1. 契約名・相手先・契約日
2. 対象資産(物件・設備の名称、所在地、号機番号など特定につながる記載)
3. 供給者が資産を入れ替えられる条項の有無と内容
4. 当社の専用利用・排他利用に関する記載
5. 利用方法や稼働時間を誰が決めるかに関する記載
6. 契約期間、自動更新、延長オプション、中途解約の条件
7. 支払額(月額・年額・総額)と、保守料などサービス部分の内訳
# ルール
- 各項目に根拠となる条項番号を付けること
- 契約書に記載がない項目は「記載なし」とし、推測で埋めないこと
- リースに該当するかの結論は出さず、判断が必要な論点を最後に箇条書きで示すこと
- 最後に上記1〜7をタブ区切り1行でも出力すること
業務委託契約のように、資産の利用とサービスが混在する契約には、追加で次の指示を加えると便利です。
この契約に含まれる役務(作業・保守・運用)と、
特定の設備やスペースの利用に当たる部分を分けて整理してください。
金額が区分されていない場合は「区分なし」と記載してください。
新基準では、リースを構成する部分とそれ以外の部分を原則として分けて処理します。ただし借手は、資産のグループごとに両者を合わせて処理する選択もできます。どちらを採るかは会社の方針次第なので、AIには事実の整理だけを任せましょう。
洗い出し台帳の作り方と短期リース・少額リースの判定
台帳に持たせたい項目
洗い出し台帳は、監査対応の証跡にもなります。最低限、次の項目を用意しておくと後工程が楽になります。
- 契約ID・相手先・所管部署・契約書の保管場所
- 対象資産と特定の根拠(条項番号)
- 解約不能期間・延長オプション・解約オプション
- 月額リース料とサービス部分の内訳
- AI抽出日・レビュー担当者・判定結果・判定理由
- 簡便法の適用有無と根拠
リース期間と簡便法のチェックリスト
借手のリース期間は、解約不能期間に「行使が合理的に確実な延長オプションの期間」を加えて決めます。同様に「行使しないことが合理的に確実な解約オプションの期間」も含めます。自動更新が続いている賃貸借契約などは、実態を踏まえた見積りが必要です。
簡便法については、ASBJの公表資料で次のような取扱いが示されています。台帳の判定欄はこの観点で作ると整理しやすくなります。
- 短期リース:リース開始日の借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないか
- 少額リース:契約1件当たりのリース料総額が300万円以下で、事業内容に照らして重要性が乏しいか
- 少額リース:原資産の新品時の価値が少額か(IFRS第16号の結論の根拠では新品5千米ドル以下程度が想定されています)
- 購入時に費用処理する重要性の乏しい減価償却資産に当たるか
具体的な適用要件や会社としての基準額は、必ず適用指針の原文と監査法人との協議で確認してください。
導入時の注意点・リスク
契約書には取引条件や個人情報が含まれます。生成AIで扱う前に、バックオフィス目線で次の点を確認しておきましょう。
- 情報漏えい:入力データが学習に使われない法人向けプランや設定を使い、無料の個人アカウントには契約書を読み込ませないようにします。
- 秘密保持義務:契約書自体に秘密保持条項がある場合、外部サービスへの入力が許されるか法務と確認します。
- ハルシネーション:AIは存在しない条項や金額をもっともらしく出力することがあります。条項番号を出させ、原本との照合を省略しないでください。
- 権限管理:契約書の共有フォルダやAIのプロジェクトは、関係者だけがアクセスできるよう設定します。
- 判断の責任:リースの識別や期間の見積りは会計上の判断です。AIの出力は補助資料として扱い、判断理由は人の言葉で台帳に残します。
- 社内規程:生成AIの利用ルールがある場合は、契約書の入力が許可される用途か事前に確認します。
また、新基準は会計上の取扱いであり、法人税の取扱いとは一致しない部分があります。税務調整の要否は顧問税理士にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
中小企業も新リース会計基準に対応する必要がありますか?
中小企業は「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」に基づいて決算を行うのが一般的です。ASBJの公表資料でも、そうした扱いを前提としつつ、基準の適用は妨げられないと説明されています。ただし上場企業の子会社や、上場を目指す会社は親会社の方針や監査の要請で対応が必要になる場合があります。
生成AIに判定まで任せてもよいですか?
おすすめしません。リースの識別には、入替権が実質的か、使用を指図する権利がどちらにあるかなど、会計上の評価が必要です。AIには条項の抽出と論点の整理を任せ、最終判定は担当者が行う形が安全です。判定理由を台帳に残すことで、監査対応の説明資料にもなります。
契約書が多すぎる場合、どこから手を付ければよいですか?
まず支払データから金額の大きい取引先と、毎月定額の支払がある取引先を優先しましょう。本社や拠点の不動産賃貸借契約は金額が大きく、リース期間の見積りも論点になりやすいため早めの着手が向いています。少額の契約は簡便法の適用可否を先に整理すると、全体の件数を絞り込めます。
まとめ
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始の事業年度から強制適用されます。準備の中心は、社内に散らばる契約の洗い出しとリースの識別です。生成AIは、契約書から資産の特定・期間・解約条件・金額などの事実を抜き出す作業で大きな力を発揮します。
一方で、リースに当たるかの評価や期間の見積りは人が判断し、根拠を台帳に残すことが欠かせません。次のアクションとして、まず支払データから候補契約を10件選び、本記事のプロンプトで試しに抽出してみてください。手応えをつかんでから対象を広げ、論点は早めに監査法人と共有していきましょう。
関連記事
- 【Dify】契約書レビューを自動化する方法|AI一次チェックと法務承認フロー
- 【Python×Claude】請求書PDFをCSV化する方法|インボイス対応
- 生成AI社内ガイドラインの作り方|AIエージェント対応のひな形付き
参考リンク
- 企業会計基準委員会:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
- 企業会計基準委員会:「リースに関する会計基準」等の公表 公表にあたって(PDF)
- 企業会計基準委員会:企業会計基準第34号 リースに関する会計基準(PDF)
