「社員が個人のアカウントで生成AIを使っているらしい」「AIエージェントに経費データを触らせてよいのか判断できない」。管理部門には、こうした相談が増えているのではないでしょうか。2023年ごろに作った生成AIの利用ルールが、チャットでの質問を前提にしたまま止まっている会社も少なくありません。
そんな中で、2026年は情報漏洩のニュースが飛び交っています。これまでの人的エラーのみならず、AIに関連したものも当然増えてきており、各社AIガバナンスについては、非常に関心が高いのではないでしょうか?
この記事では、生成AIの社内ガイドラインの作り方を6つのステップで解説します。2026年3月に公表されたAI事業者ガイドライン第1.2版の考え方も踏まえ、AIエージェントの利用まで含めたひな形とチェックリストを紹介します。
対象は、総務・法務・情報システム・経理などで社内ルール作りを任された方です。専門部署がない中小企業やスタートアップでも、そのまま叩き台として使える内容を目指しました。
生成AI社内ガイドラインの見直しが今必要な理由
生成AIの社内ガイドラインとは、社員がAIツールを業務で使うときの範囲や禁止事項、手続きを定めた社内ルールです。多くの会社では「機密情報を入力しない」「出力は必ず確認する」という2点が中心でした。しかし、ここ1年でAIの使われ方そのものが変わりつつあります。
AI法とAI事業者ガイドライン第1.2版のポイント
2025年6月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)が公布され、同年9月1日に全面施行されました。罰則で縛る法律ではなく、研究開発と活用を推進するための基本法という位置づけです。
実務で参考になるのは、総務省と経済産業省が公表している「AI事業者ガイドライン」です。2026年3月31日に第1.2版が公表され、チェックリストやワークシート(Excel)も掲載されています。AIを業務で使う一般企業は、この中で「AI利用者」として位置づけられます。
第1.2版の別添では、AIエージェントについて、意図しない商品の注文やファイル削除などの動作を行う可能性や、外部システムとの連携を通じて内部データが流出するおそれが指摘されています。つまり、社内ガイドラインも「入力」だけでなく「AIの行動」を管理する視点が必要になったということです。
チャット利用とAIエージェント利用でリスクはどう変わるか
AIエージェントとは、目標を与えると自律的に手順を考え、ツールやシステムを操作してタスクを進めるAIのことです。n8nやDifyのワークフロー、ブラウザやPCを操作するAI機能などが身近な例です。
| 観点 | チャット型の利用 | AIエージェント型の利用 |
|---|---|---|
| 主なリスク | 入力した情報の漏えい、誤回答の転記 | 誤った送信・登録・削除、権限の乱用、外部への情報送信 |
| 人の関与 | 出力を人が読んでから使う | 人が見ないまま処理が進む場合がある |
| 影響範囲 | 利用者個人の作業 | 連携先システム全体、取引先や従業員 |
| 必要なルール | 入力禁止情報、出力確認、ツールの指定 | 権限の最小化、承認ポイント、ログ保存、停止手順 |
経理なら振込データ、人事なら評価や給与情報など、バックオフィスは影響の大きいデータを扱います。だからこそ、チャット時代のルールに「エージェント用の章」を足すことが現実的な見直し方です。
生成AI社内ガイドラインの作り方6ステップ
ゼロから完璧な規程を作ろうとすると、何か月もかかってしまいます。まずは次の6ステップで「最低限守るべき線」を決め、運用しながら育てるのがおすすめです。
- 利用実態を棚卸しする:部門ごとに、使っているAIツール、契約形態(個人か法人か)、扱っている業務とデータを簡単なアンケートで集めます。
- データを3段階に分類する:「入力可(公開情報など)」「条件付き可(社内資料など)」「入力禁止(個人番号、未公表の決算情報など)」に分けます。
- 利用を認めるツールを決める:法人契約のツールに限定し、入力データの学習利用やデータ保存期間を各社の規約で確認したうえで「許可ツール一覧」を作ります。
- 用途を3区分する:「自由に使ってよい用途」「上長承認が必要な用途」「禁止する用途」を業務例つきで書きます。
- AIエージェントの章を追加する:自動化の段階ごとに、権限、承認、ログ、停止手順を定めます(次章で詳しく解説します)。
- 周知・相談窓口・見直し時期を決める:説明会や社内FAQで周知し、相談先を1か所に絞ります。見直しは半年ごとなど時期を決めておきます。
ステップ2のデータ分類は、既存の情報セキュリティ規程や文書管理規程があれば、その区分に合わせるのが近道です。新しい区分を作ると、現場が二重のルールに迷ってしまいます。
部門ごとの「禁止する用途」は、例えば次のように具体的に書くと伝わりやすくなります。
- 経理:AIの出力だけで仕訳を確定・計上しない。未公表の決算数値を許可ツール以外に入力しない
- 人事:採用の合否や人事評価をAIの判断だけで決めない。個人番号や健康情報を入力しない
- 総務・法務:契約書のAIレビュー結果をそのまま相手方に送らない。最終判断は担当者が行う
そのまま使える生成AI利用ガイドラインのひな形
以下は、中小企業向けに要点を絞った条文例です。自社の規程体系や用語に合わせて修正してください。法的な有効性や就業規則との関係は、必要に応じて社労士や弁護士に確認することをおすすめします。
生成AI利用ガイドライン(例)
第1条(目的)
本ガイドラインは、当社の業務における生成AIの適切な
利用方法を定め、業務効率化と情報保護の両立を図る
ことを目的とする。
第2条(対象ツール)
業務で利用できる生成AIは、情報システム担当が別表1
「許可ツール一覧」に定めたものに限る。個人契約の
アカウントで業務情報を扱ってはならない。
第3条(入力できる情報)
別表2の区分に従い、「入力禁止情報」に該当する情報
(個人番号、健康情報、未公表の決算情報、取引先から
秘密保持義務を負う情報等)を入力してはならない。
第4条(出力の確認と責任)
生成AIの出力は誤りを含む可能性があるため、利用者は
事実関係・数値・法令を確認したうえで利用する。
出力を用いた成果物の責任は利用者および所属部門が負う。
第5条(AIエージェントの利用)
外部システムへの登録・送信・削除・支払いを伴う
自動化は、事前に情報システム担当の承認を得る。
承認時には権限範囲、人による確認ポイント、ログの
保存方法、停止手順を記載した申請書を提出する。
第6条(禁止事項)
1. 他者の著作物を不当に複製・改変する目的での利用
2. 採用・評価・懲戒等をAIの判断のみで決定すること
3. 社外への回答をAIが自動送信する設定(承認なし)
第7条(相談・報告)
誤入力や意図しない動作が発生した場合は、速やかに
相談窓口へ報告する。
第8条(見直し)
本ガイドラインは原則として6か月ごとに見直す。
ポイントは、第2条と第3条を「別表」に切り出していることです。ツールやデータ区分は変化が早いため、本文を改定せずに別表だけ更新できる形にしておくと、運用が楽になります。
AIエージェント利用の社内ルール:権限・承認・ログの決め方
AIエージェントのルールは、「どこまで自動で動かしてよいか」を段階で決めると整理しやすくなります。以下は自動化レベルの考え方の例です。
| レベル | AIが行うこと | 業務例 | 求める管理 |
|---|---|---|---|
| 1 下書き | 文案や集計案を作るだけ | 稟議書の下書き、議事録要約 | 利用者が確認して使用 |
| 2 提案 | 候補を出し、人が選んで実行 | 勘定科目の候補提示、入金消込の照合案 | 人の確定操作を必須にする |
| 3 条件付き実行 | ルール内の処理を自動実行 | 定型問い合わせへの社内向け回答 | 事前承認、ログ保存、定期点検 |
| 4 外部影響あり | 送信・登録・支払いなどを実行 | 取引先へのメール送信、会計SaaSへの登録 | 原則として実行前に人の承認を挟む |
バックオフィスでは、レベル2までを標準とし、レベル3以上は申請制にする運用が無理のない出発点です。特に振込や取引先への送信は、最後のボタンを人が押す設計にしておくと安心です。
エージェントの申請時に確認したい項目
n8nやDifyでワークフローを作る場合、申請書には次の項目を書いてもらうと審査がしやすくなります。
- 処理の流れ(トリガー、使うAI、連携先システムの順番)
- AIに渡すデータの種類と、データ区分上の位置づけ
- 連携用アカウントの権限(閲覧のみか、登録・削除までできるか)
- 人が確認するポイントと、承認者
- 実行ログの保存場所と保存期間
- 異常時の停止方法と、停止できる担当者
連携用のAPIキー(外部サービスと接続するための鍵)は、個人ではなく部門の管理用アカウントで発行し、退職や異動のときに引き継げるようにしておくことも重要です。
生成AI導入時の注意点・リスク
ガイドラインを作っても、運用で形骸化しては意味がありません。バックオフィスの目線で、特に注意したい点を整理します。
情報漏えいと個人情報の取り扱い
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合は、利用目的の範囲内かを確認する必要があります。従業員データや顧客データを扱う人事・経理は、入力禁止情報の線引きを特に明確にしてください。
ハルシネーションと確認責任
ハルシネーションとは、AIがもっともらしい誤りを出力する現象です。法令の条文や税率、日付などは誤りが起きやすいため、一次情報で確認する手順をルールに含めます。「AIが言ったから」は社内外への説明になりません。
プロンプトインジェクションへの備え
AIエージェントが外部のメールや添付ファイルを読む場合、その中に悪意ある指示が埋め込まれている可能性があります。これをプロンプトインジェクションと呼びます。外部から届いた文書を処理するエージェントには、送信や削除の権限を持たせないことが基本の対策です。
運用定着のためのチェックリスト
- 許可ツール一覧と入力禁止情報が、社員がすぐ見られる場所にある
- 個人契約のAIアカウントでの業務利用を禁止し、代わりの法人ツールを用意した
- AIエージェントの申請・承認フローと担当者が決まっている
- 連携アカウントの権限が必要最小限になっている
- 実行ログの保存場所と保存期間が決まっている
- 誤入力や誤動作時の報告窓口が周知されている
- 見直し時期と担当者が決まっている
禁止事項だけを並べると、社員は隠れて使うようになりがちです。「安全に使える道」を同時に用意することが、シャドーAI(会社が把握していないAI利用)を減らす一番の近道です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 小さな会社でも生成AIの社内ガイドラインは必要ですか?
必要です。人数が少ない会社ほど、一人がうっかり入力した情報の影響が大きくなります。最初から長い規程にする必要はなく、本記事のひな形のように「許可ツール」「入力禁止情報」「出力確認」「エージェントの承認」の4点だけでも決めておくと、判断に迷う場面が大きく減ります。
Q2. 就業規則や情報セキュリティ規程とどう関係させればよいですか?
新たに独立した規程を作るより、既存の情報セキュリティ規程の下に位置づける「細則」や「ガイドライン」として作る方法が一般的です。懲戒との関係など、従業員の権利義務に関わる部分を定める場合は、就業規則との整合を社労士や弁護士に確認しておくと安心です。
Q3. AI事業者ガイドラインはすべて守らなければいけませんか?
AI事業者ガイドラインは法的な拘束力を持つものではなく、事業者が自主的に取り組むための指針と位置づけられています。ただし、リスクの整理やチェックリストは実務の参考になります。全項目を満たそうとせず、自社の利用場面に関係する項目を選んで社内ルールに反映するのが現実的です。
まとめ:AIエージェント時代の社内ガイドラインは「行動」まで管理する
生成AIの社内ガイドラインは、これまでの「入力しない情報」と「出力の確認」に加え、AIエージェントの権限・承認・ログ・停止手順まで定める段階に来ています。AI事業者ガイドライン第1.2版でも、エージェントによる意図しない動作や情報流出のリスクが整理されています。
まずは利用実態の棚卸しとデータ区分から始め、本記事のひな形と自動化レベル表を自社用に書き換えてみてください。次のアクションとして、今週中に各部門へ「使っているAIツールと用途」を聞く簡単なアンケートを送ることをおすすめします。
チェックリストが必要な方は、 general@ks-account-support.com までご連絡ください。コンサルティングも含めて、サポートできる部分はサポートさせていただきます。
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参考リンク
- AI事業者ガイドライン(経済産業省)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添(総務省)
- AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-(内閣府)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(個人情報保護委員会)
- 生成AIの利用ガイドライン(日本ディープラーニング協会)
※本記事の制度・ガイドラインに関する情報は執筆時点(2026年10月)の公式情報に基づきます。最新情報は各公式サイトをご確認ください。
