月次決算が終わったあと、試算表や月次推移表を眺めて「なぜこの科目が増えたのか」を説明する作業に追われていませんか。前月比の差異を一つずつ拾い、仕訳を追い、コメントを書く作業は、毎月同じなのに意外と時間がかかります。
2026年にOpenAIが提供を始めた「ChatGPT for Excel」を使うと、Excelの画面を開いたまま、ChatGPTにブックの中身を読ませて質問や修正を頼めます。この記事では、経理担当者が月次推移表の増減分析と数式チェックに使う手順を、コピペで使えるプロンプト例つきで解説します。
対象読者は、経理・財務・経営企画でExcelを日常的に使っている方です。プログラミングの知識は不要です。導入前に確認すべきプランや社内ルールの注意点もあわせて整理します。
ChatGPT for Excelとは?経理の使い方を考える前に知るべき基本
ChatGPT for Excelは、ExcelにChatGPTを組み込むアドイン(追加機能)です。OpenAIの公式発表によると、2026年3月5日にベータ版として公開されました。その後4月22日にGoogleスプレッドシート版のベータが加わり、5月5日に全プランで一般提供(GA)になったと案内されています。
公式の製品ページでは、主な機能として次の点が挙げられています。
- 言葉で指示するだけで、数式や書式を含むシートを新規作成・編集できる
- 複数シートにまたがるデータについて質問し、要約を得られる
- 数式の意味を説明し、エラーの原因を探して修正案を出す
- データのパターンや傾向を見つける
経理目線で重要なのは、回答が参照したセルにリンクされる点です。また、ブックを編集する前に許可を求め、変更を元に戻せる仕組みになっています。AIの回答を「どのセルを根拠にしたか」で検証できるため、監査証跡を意識する経理と相性のよい設計です。
Claude for ExcelやCopilotとの位置づけ
Excelに組み込めるAIは、ChatGPT for Excelだけではありません。AnthropicのClaude for Excelや、MicrosoftのCopilotにも似た機能があります。当サイトではClaude for Excelを予算策定に使う方法を別記事で紹介しています。本記事では、月次の「実績の振り返り」に絞って使い方を解説します。
ChatGPT for Excelの対象プランとインストール手順
執筆時点(2026年11月)の公式製品ページでは、Free・Go・Plus・Pro・Business・Enterprise・Eduなど幅広いプランが対象とされています。ただし、プランによって利用量の上限やクレジット(従量課金の単位)の扱いが異なります。会社で使う場合は、最新の条件を公式ヘルプで確認してください。
インストールの流れは次のとおりです。
- Excel(デスクトップ版またはWeb版)を開き、[ホーム]タブの[アドイン]を選びます。
- 検索欄に「ChatGPT」と入力し、OpenAIが提供するアドインを追加します。
- リボンに表示されたChatGPTのボタンを押し、サイドパネルを開きます。
- 利用資格のあるChatGPTアカウントでサインインします。
- 最初は本番ファイルではなく、コピーしたテスト用ブックで動作を確かめます。
Googleスプレッドシートの場合は、[拡張機能]→[アドオン]→[アドオンを取得]からChatGPTを検索してインストールします。
会社のアカウントで使えない場合
Enterpriseのワークスペースでは、この機能は初期状態で無効になっていると案内されています。管理者が有効化し、利用できるユーザーやグループを権限設定で決める仕組みです。社内のExcelでアドインの追加自体が制限されている場合は、情報システム部門にMicrosoft 365管理センターからの配布を相談しましょう。
月次推移表の増減分析をChatGPTで効率化する手順
ここからは、具体的な業務での使い方です。題材は、勘定科目ごとに月別の金額が並んだ「月次推移表」です。会計ソフトから出力した推移表をExcelに貼り付けた状態を想定します。
事前にシートを整えておく
AIに正確に読ませるには、元データの形が大切です。次のように整えておくと、回答のぶれが減ります。
- 1行目に見出し(科目コード、科目名、各月)を置き、結合セルを使わない
- 小計行や合計行には「小計」などの文字を入れ、明細と区別できるようにする
- 前月の差異コメントがあれば、別シートに残しておく(書き方の見本になる)
- 重要性の基準(例:前月比20%以上かつ50万円以上)を決めておく
ステップ1:差異の大きい科目を抽出させる
まずは編集を伴わない「質問」から始めます。次のプロンプトをサイドパネルに貼り付けてください。
「推移表」シートを読んでください。
当月(最右列)と前月を比較し、次の条件を満たす科目を一覧にしてください。
・増減率が±20%以上
・かつ増減額の絶対値が50万円以上
出力は表形式で、科目名/前月/当月/増減額/増減率/参照したセルを示してください。
シートの編集はまだしないでください。
最後の一文がポイントです。まず結果だけを確認し、条件の解釈がずれていないかを見ます。参照セルのリンクをたどれば、計算の根拠を自分の目で確かめられます。
ステップ2:増減理由の仮説を出させる
抽出した科目について、考えられる理由を挙げてもらいます。AIは社内の事情を知らないため、「仮説」として扱うことを指示に含めます。
抽出した科目それぞれについて、増減の理由として考えられる仮説を2つずつ挙げてください。
・同じブック内の「補助元帳」シートに根拠となる取引があれば、その行を示してください。
・根拠が見つからない場合は「要確認」と明記し、推測で断定しないでください。
・経理担当者が確認すべき資料(請求書、契約書など)も添えてください。
この段階の出力は、担当者が確認するためのたたき台です。根拠のない説明をそのまま報告資料に載せないようにしましょう。
ステップ3:コメント列を追記させる
担当者が理由を確認できたら、推移表の横にコメントを書き込ませます。ここで初めて編集を許可します。
確認が取れた理由は以下のとおりです。
・広告宣伝費:秋のキャンペーン実施による一時的な増加
・支払手数料:決済サービス変更に伴う初期費用
「推移表」シートのN列に「差異コメント」という見出しを作り、該当行に60字以内で記載してください。
他のセルは変更しないでください。変更前に、書き込む内容を一覧で見せてください。
上の理由は説明のための例です。実際には、自社で確認した事実に置き換えてください。
Excelの数式エラーをChatGPTでチェックするコツ
引き継いだブックや、何年も使い続けている管理表には、壊れた数式が紛れていることがあります。ChatGPT for Excelは、数式の説明やエラーの追跡が得意とされています。次の観点でチェックを依頼すると効果的です。
| チェック観点 | よくある症状 | 依頼の例 |
|---|---|---|
| 参照範囲のずれ | 行を追加したのにSUM範囲が広がっていない | 合計行のSUM範囲が明細の全行を含むか確認して |
| 手入力の上書き | 数式のはずのセルに数値が直接入っている | 同じ列で数式ではなく値が入っているセルを探して |
| エラー値 | #REF!や#N/Aが残っている | エラー値のセルを一覧にし、原因と修正案を示して |
| シート間の不一致 | 集計表と明細の合計が合わない | 集計表と明細シートの合計を照合し、差額のある科目を示して |
| 端数処理 | ROUNDの位置が列ごとに違う | 端数処理の方法が揃っているか確認して |
数式の修正も、最初は「修正案を示すだけ」にとどめるのが安全です。案を見て問題がなければ、範囲を指定して修正を許可します。
対応していない機能に注意
公式の製品ページでは、Office Scripts、Power Query、ピボットテーブル/データモデル、データの入力規則、スライサー、タイムライン、VBAマクロなどは現時点で未対応と案内されています。マクロやPower Queryで組まれたブックは、その部分をAIが正しく扱えない前提で使いましょう。
また、非常に大きなブックは一度に読み込める量(コンテキストウィンドウ)を超え、一部だけの結果になる場合があります。分析対象のシートや範囲を絞って指示すると安定します。
導入時の注意点・リスク|経理データを扱う前の確認事項
便利な機能ですが、経理データは会社の機密情報の塊です。使い始める前に、次の点を社内で確認しておきましょう。
データの取り扱いとプラン選び
公式ページによると、Business・Enterprise・Edu・Teachersプランでは、初期設定でデータがモデルの改善に使われません。一方、個人向けプランではデータコントロールの設定が異なる場合があります。業務データを扱うなら、会社契約のプランで使うことを原則にしましょう。
誤編集とハルシネーション
ChatGPTはブックを編集できるため、曖昧な指示でデータが変わったり消えたりするおそれがあると公式も注意しています。さらに、もっともらしい誤りを出力すること(ハルシネーション)もあります。次のチェックリストを運用ルールにすると安心です。
- 作業前にファイルを複製し、元データを残す
- 「編集しないで」「変更前に一覧を見せて」と明示する
- 参照セルのリンクで根拠を必ず確認する
- 合計値や残高は、会計ソフトの数値と突き合わせる
- AIが書いたコメントは、担当者と承認者が確認してから使う
社内規程と権限管理
アドインの追加を個人の判断に任せると、いわゆる「シャドーAI」(会社が把握していないAI利用)につながります。生成AIの社内ガイドラインに、利用できるツール、入力してよい情報の範囲、個人情報を含むファイルの扱いを明記しましょう。給与データや個人番号を含むシートは、原則として対象外にするのが無難です。
なお、公式ページでもChatGPTは財務・会計のアドバイザーではなく、専門家の判断に代わるものではないと明記されています。最終的な判断と責任は、人が持つ前提で設計しましょう。
ChatGPT for Excelの経理での使い方を広げるアイデア
増減分析に慣れてきたら、ほかの定型業務にも広げられます。いずれも、まずは「質問」から始め、慣れてから「編集」を任せる順番がおすすめです。
- 売掛金の年齢表チェック:滞留期間ごとの残高を集計させ、90日超の取引先を抽出する
- 予実差異の一次コメント:予算シートと実績シートを比較し、説明が必要な科目を洗い出す
- 固定資産台帳の確認:耐用年数や償却方法の入力漏れ、不自然な値を探す
- 経費データの分類:摘要の表記ゆれを整理し、科目候補を提案させる
- 引き継ぎ資料の作成:複雑なブックの構造と数式のつながりを文章で説明させる
Googleスプレッドシート中心の会社なら、スプレッドシート版でも同じ考え方が使えます。社内の主要ツールに合わせて選びましょう。
よくある質問(FAQ)
ChatGPT for Excelは無料プランでも使えますか?
執筆時点の公式製品ページでは、FreeやGoを含む幅広いプランが対象として記載されています。ただし、無料や低価格のプランでは利用量の上限が厳しく設定されている場合があります。また、業務データを扱うなら、学習に使われない設定が既定となる会社向けプランが安心です。最新の条件は公式ヘルプで確認してください。
ChatGPTのチャット履歴とExcelでの会話はつながっていますか?
公式ページによると、アドインはChatGPT本体のチャット履歴とは別に動作します。Excelやスプレッドシートでの会話やデータは通常のチャットと共有されず、相互に同期もされません。そのため、ブラウザ版で話した前提はExcel側に引き継がれない点に注意が必要です。必要な前提条件は、Excel側のプロンプトにその都度書きましょう。
会計ソフトから出力したCSVをそのまま分析できますか?
Excelで開いた状態であれば、質問や集計を依頼できます。ただし、結合セルや空白行が多いと、AIが表の構造を誤って読む場合があります。見出しを1行にまとめ、合計行を明示するなど、事前に整えておくと精度が上がります。分析結果の合計値は、必ず会計ソフト側の数値と照合してください。
まとめ|まずは質問だけの使い方から始めよう
ChatGPT for Excelを使えば、月次推移表の増減分析や数式チェックを、Excelを開いたまま進められます。参照セルが示され、編集前に許可を求める仕組みがあるため、経理でも根拠を確かめながら使えます。
一方で、誤編集やハルシネーションのリスクはゼロではありません。ファイルの複製、編集範囲の明示、会計ソフトとの突き合わせを習慣にしましょう。次のアクションとして、前月の推移表のコピーを用意し、本記事のステップ1のプロンプトで「差異の抽出」だけを試してみてください。効果を確かめたうえで、社内ガイドラインへの追記と利用範囲の拡大を検討するのがおすすめです。
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参考リンク
- Introducing ChatGPT for Excel and new financial data integrations(OpenAI)
- ChatGPT for Excel and Google Sheets(製品ページ)
- ChatGPT for Excel and Google Sheets(OpenAIヘルプセンター)
